土曜講座「アートの現場」 「ホモ・ピクトル・ムジカーリス―描き音楽するヒト」

2020.02.08
開館記念展の土曜講座の最終回は、メディカルクリニック柿の木坂院長・東京女子医科大学名誉教授で神経内科医の岩田誠先生にご登壇いただきました。

岩田先生が2017年5月に上梓された『ホモ ピクトル ムジカーリス ―アートの進化史―』にも書かれている、「ヒト」がいかにして「表現者(アーティスト)」になったかについて、非常にわかりやすく体系的にお話しくださいました。

ヒトは、直立二足歩行をすることによって手が使えるようになり、脳を大きくすることも可能になります。ヒトは声帯と気道を近付ける進化をしたことで、声が口腔内に届くようになり、そのために「むせる」という生命に関わるリスクを伴いながらも、岩田先生曰く「命がけで」言葉を手に入れます。

コンゴという名のチンパンジーが描いた描画と、岩田先生のお孫さんが描いた絵の記録が紹介され、人間の子どもは、言葉の発達とともに、描いた対象物を言葉で表現するようになり、その描画も発達していくことが説明されました。

ではヒトはいつから絵を描いていたのでしょうか。 3万数千年前に描かれたショーヴェ洞窟をはじめとする洞窟壁画は、音響の良い場所に描かれ、当時使われたものとして骨製笛、骨製スクレイパー、石琴などの楽器が発見されています。その場所は、絵画と言葉と歌と踊りという総合芸術の場であり、当時の芸術の目的が集団全体の祈りだったこと、そして祈りの行為を実現させたのは、私たちが獲得した言語の能力だったことをお話しくださいました。 人は何のために絵を描くのか、という根源的なことを考えさせられる大変興味深いお話でした。

岩田先生は小学生の頃、お父さまに連れられて、当時のブリヂストン美術館をよく訪れていらしたそうです。講座の終盤には、岩田先生が絵やバイオリンを習うに至った子ども時代のことや、文化人類学の教授に弟子入り志願したことをきっかけに医学部に進学され、医学部生時代には、将来発掘に役立てたいと、骨のスケッチに熱心に取り組まれたエピソードなども交えて楽しくお話しくださり、あっという間の1時間30分でした。 次の土曜講座の開催は5月を予定しています。近日中に情報を告知いたしますので、どうぞお楽しみに。
土曜講座「アートの現場」 「ホモ・ピクトル・ムジカーリス―描き音楽するヒト」
土曜講座「アートの現場」 「ホモ・ピクトル・ムジカーリス―描き音楽するヒト」
土曜講座「アートの現場」 「ホモ・ピクトル・ムジカーリス―描き音楽するヒト」
土曜講座「アートの現場」 「ホモ・ピクトル・ムジカーリス―描き音楽するヒト」