拡大《裁判所のキリスト》

ジョルジュ・ルオー

《裁判所のキリスト》

1935年  油彩・厚紙

20世紀最大の宗教画家と称されるルオーは、生涯を通じて多くのキリスト教的主題の作品を描きました。ルオーが独自のキリスト像を描き始めたのは、エコール・デ・ボザールを退学し、新しい画風を切り開いていた1904年頃のことです。粗々しい筆致で自身の日常を取り巻く都市の風景や、サーカスの道化師など市井の人々を描く中で、キリストの真実を追求する図像を手がけています。裁判所の主題は、1907年頃、友人の検事グラニエに連れられてセーヌ県裁判所に頻繁に出入りし、法廷を傍聴したことをきっかけに、1907年から14年の間に数多く見られ、その後も数は少ないものの繰り返し描かれました。当初よりこの主題に対するルオーの関心は、裁判所の舞台装置や個別の事件にかかわる正確な記録の絵画化ではなく、人が人を裁くという裁判そのものの持つ不条理にこそ向けられています。そして1930年代以降になると、裁判所の情景の中にキリストが登場し、新たな意味の深まりや感情が加わるようになります。この作品では、中央に、こちらをまっすぐに見つめるキリストが描かれています。周囲の赤く塗られた人々は、ルオーが見た裁判官や被告人の姿でしょうか。あるいは、キリストの受難物語における、法廷でキリストを嘲笑する大祭司や兵士たち、さらには、神をも裁こうとする普遍的な人間の姿なのかもしれません。

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