Paris Report

Column|2017.06.30
展覧会ハイライト

「ブリヂストン美術館の名品-石橋財団コレクション展」では、ブリヂストン美術館の選りすぐりの作品が、6つのセクションで展示されています。展覧会の見どころを各セクションごとにご紹介します。

ブリヂストン美術館のコレクションは、創設者である石橋正二郎の個人蒐集から始まり、その後石橋財団によって引き継がれて発展してきました。コレクションの総数は、現在では約2,600点を数えます。石橋正二郎が自ら集めた美術作品が、首都東京の中心に設置された美術館で公開されていることは、フランスの画商ポール・ギヨームが自らのコレクションを1965年にフランス国家に寄贈し、パリの中心であるオランジュリー美術館で公開されていることと共鳴しています。 「ブリヂストン美術館の名品––石橋財団コレクション展」開催のきっかけとなったのは、オランジュリー美術館とブリヂストン美術館の両館で2012年に開催された「ドビュッシー、音楽と美術」展でした。この展覧会で協働した両館は、以降現在に至るまで、学術面のみならず様々な協力関係を育み、良好な関係を築いてきました。今回の展覧会は、ブリヂストン美術館のコレクションに関心を持ったオランジュリー美術館からの依頼により実現しました。ブリヂストン美術館所蔵品の中から厳選された作品がオランジュリー美術館で展示されています。

第1室:芸術に魅了された石橋家の人たち
最初のセクションでは、ブリヂストン美術館の創設者石橋正二郎を紹介しています。正二郎が美術作品のコレクションをはじめたのは、1926年に久留米市の櫛原町に新築された自邸を装飾することが目的でした。最初にその関心が向かったのは日本の近代洋画でした。この展覧会は、日本近代洋画史を代表する青木繁の《海の幸》でスタートします。ここではまた、石橋正二郎の美術コレクション、ブリヂストン美術館の開館当時の様子など、美術館の歴史にかかわる映像も紹介します。

第2室:石橋正二郎の初期の関心——日本近代洋画
ここでは、正二郎が最初に関心をもった日本近代洋画の名品が展示されています。中でも正二郎の心を惹きつけたのは、青木繁と藤島武二でした。ここで展示されている青木の《わだつみのいろこの宮》、藤島の《黒扇》といった作品は画家の代表作であり、これら作品は、日本の重要文化財に指定されています。ヨーロッパで大いなる名声を馳せた藤田嗣治もまた、正二郎の蒐集の対象となりました。フランスで描かれた《猫のいる静物》は、オランジュリー美術館所蔵品ではスーティンやモディリアーニに代表されるエコール・ド・パリの画家たちの作品と繋がりを持っています。

第3室:コレクションの中心——印象派
石橋正二郎の美術に対する関心は、やがてヨーロッパの絵画と彫刻に興味が広まりました。特に関心を示したのは、フランス印象派を中心とする作品でした。正二郎によるエネルギッシュな蒐集は、1952年のブリヂストン美術館開館後も続けられ、クールベ、コロー、ドーミエなどの前印象派から印象派・ポスト印象派に至る作品がコレクションとなりました。その中には、モネの睡蓮を含む各時代の作品、マネの珍しい《自画像》、ドガによる美しい肖像画《レオポール・ルヴェールの肖像》などが含まれています。比較的に近年になって蒐集されたルノワールの《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》やギュスターヴ・カイユボットによる《ピアノを弾く若い男》は、これらのコレクションを洗練された形で補完しています。

第4室:ポスト印象派コレクション——セザンヌからトゥールーズ=ロートレックまで
ポスト印象派の作品にも石橋正二郎は多大な関心を示し、精力的に蒐集を行いました。セザンヌの《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》は、連作の中でもとりわけ完成度の高い作品として知られています。この作品が日本に将来したのは、1923年のことで、日本に初めて将来したセザンヌ作品のひとつでした。ゴーガンの《馬の頭部のある静物》は、19世紀後半における西欧の芸術活動に日本美術が及ぼした「ジャポニスム」の影響関係を示す作品です。その他ゴッホの初期作品《モンマルトルの風車》、ロートレックのグリザイユによる《サーカスの舞台裏》のほか、さらにはセザンヌやモローのデッサン等ブリヂストン美術館の水彩・素描のコレクションに収められている作品数点もここに展示されています。

第5室:モダン・アート・コレクション——マティスやピカソから抽象絵画まで
このセクションは、20世紀初頭の前衛的な近代美術を展示しています。シニャックの水彩画《ラ・ロッシェル》は、正二郎が最初期に購入した西洋絵画で、石橋正二郎は自宅の居間にこれを飾って愛好していた、と言われています。ピカソのキュビスム期の《ブルゴーニュのマール瓶、グラス、新聞紙》、1920年代、新古典主義時代の典型的な特徴を示す《腕を組んですわるサルタンバンク》は、コレクションの代表的な作品です。マティスのフォーヴィスム最初期の作品《画室の裸婦》、 フォーヴィスム盛期の《石膏のある静物》などに至る油彩画群もまたここに展示されています。また、抽象絵画の黎明を示すモンドリアンの《砂丘》やクレーの 《島》なども展示されています。これらコレクションは、オランジュリー美術館が収蔵しているポール・ギヨームのコレクションと非常に近いテイストを示しています。奇遇にも、石橋財団コレクションのモディリアーニの《若い農夫》は、かつてギヨームの所蔵していた作品でした。

第6室:東洋と西洋のあいだで——戦後の抽象と具象美術
このセクションは、第二次世界大戦後の抽象美術を紹介しています。この分野は、とりわけ近年蒐集された作品が多く含まれています。東洋と西洋のアーティストたちの典型的な作品によるコレクションが形成されています。抽象表現主義を代表するポロック、戦後フランスの抽象絵画を代表するフォートリエやアルトゥングの作品が、日本の白髪一雄や中国出身のザオ・ウーキー作品と渾然一体となって展示されています。東洋と西洋の対話は、たとえばスーラージュや堂本尚郎作品の対比にも明確に見えます。これらの作品群は、石橋財団コレクションの幅が今も拡張し続けていることを示しています。(Y.S)