ドラクロワには間違いなく何かがあります。昔の画家にはない熱のようなものが。

ポール・セザンヌ

印象主義に導かれながらも、それを超越すべく、色や形の造形的価値を探求して近代絵画の礎を築いたセザンヌの絵画は、それを観る者にとって視覚的に魅力的なものですが、その表現方法は、極度に難解でもあります。これまでセザンヌが何を目指し、何を達成し得たかについて、様々な解釈と議論がなされてきましたが、未だ明確な結論が下されたわけではありません。セザンヌの絵画を理論で説明することは難しく、だからこそ多くの芸術家たちは興味を持ち、セザンヌの絵に示されたいくつもの課題の中から自分の関心と共鳴するものを抽出し、それぞれの探求の起点に位置づけ、そこから派生した問題を解き明かして自らの新しい創造へと昇華させていく試みを続けたのでしょう。

水浴
ポール・セザンヌ《水浴》1865-70年頃、水彩・紙
アルジェの女たち
ウジェーヌ・ドラクロワ《アルジェの女たち》
1834年サロン出品、油彩・カンヴァス
 ルーヴル美術館、パリ
Photo © RMN-Grand Palais (musee du Louvre) /
Thierry Le Mage /distributed by AMF-DNPartcom

一方で、セザンヌ自身も常に新しい絵画創造を求めながら、過去の偉大なる芸術を振り返り、それらを模倣することからみずからの制作の糧を得ていました。それはいにしえの巨匠たちの芸術創造に対する態度、あるいは熱い情熱への共感でもありました。たとえば、セザンヌは、革新的意識を持つ自らに先行するフランス絵画の巨匠ウジェーヌ・ドラクロワについて、しばしば礼賛の言葉を寄せています。ルーヴル美術館の《アルジェの女たち》を前に、友人ジョワシャン・ガスケとの会話においては、次のように述べています。

私たちは、ドラクロワの中にいます。純粋な色彩そのものの喜びについて、あなたに話す時、私が言おうとしているのはこれです。・・・この絵は濃密です。絹織物のように、色彩が互いに交錯しています。すべてが織り上げられ、全体として、仕上げられています。だからこそ丸みがあるのです。偉大な画家たち以後、量感が描かれたのはこれが初めてです。しかもドラクロワには間違いなく何かがあります。昔の画家にはない熱のようなものが。それは私が思うに、回復期の喜ばしい熱です。

このセザンヌの画家としての感覚、感受性は、その革新的技法と同様、あるいはそれ以上に多くの画家たちの指針となり、今日まで影響を及ぼし続けています。

学芸員:新畑泰秀

帽子をかぶった自画像
ポール・セザンヌ《帽子をかぶった自画像》
1890-94年頃、油彩・カンヴァス