トピックス

本展に関するトピックスを順次ご紹介します。

NEW20世紀美術の最重要人物、マルセル・デュシャンの作品を初公開中

マルセル・デュシャン《マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの箱)シリーズB》 1952年、1946年(鉛筆素描)

マルセル・デュシャン《マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの箱)シリーズB》1952年、1946年(鉛筆素描)
© Association Marcel Duchamp / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo 2021 C3439

マルセル・デュシャン(1887-1968)は、既製品を用いた「レディメイド」の試みにより旧来の芸術の概念を壊したことで知られる、20世紀美術の展開に欠くことのできない作家です。アーティゾン美術館は近年、通称「トランクの箱」をはじめとする、デュシャンの主要作品を相次いで収蔵しましたが、それはこの美術館が今後踏み出そうとする方向を示す、大きな意味をもつものです。
その収蔵後、初めて公開を行うのがSTEPS AHEAD展で、「デュシャンとニューヨーク」というセクションを設け、その中でデュシャン作品を計4点展示しています。既製品や自作のミニチュア、着想を記したコピーの断片などを通して、デュシャンの世界を味わえることはもちろん、フランシス・ピカビアやジョゼフ・コーネル、ひいては瀧口修造など、周囲に展示された作家との関わりにおいて、その遠心力の強さをうかがうこともできる展示になっています。
デュシャン作品が揃って展示されているとともに、そこから開けてくる20世紀美術の領野を展望できるこの展覧会も、9月5日の閉幕まで残すところあとわずかです。この機会をどうぞお見逃しなく。(学芸員:島本英明)

会場を包み込み、作品をさらに魅力的に見せる陰の立役者とは?

会場を包み込み、作品をさらに魅力的に見せる陰の立役者とは?
展覧会場では展示作品の見せ方に様々な工夫をしています、何だかお分かりでしょうか?
たとえば、会場の壁の色。STEPS AHEAD展では、セクションごとに部屋の壁色を変えています。展覧会作りは、作品選びはもちろんのこと、会場構成も大事な要素のひとつです。作品の色合いやセクションのテーマに合わせて、慎重に壁色は決まります。例えば、セクション3「カンディンスキーとクレー」の壁色はパステルなブルーグリーン。これは、二人が活躍したバウハウスの芝生をイメージしています。是非、会場で壁の色にも注目してみてください。(学芸員:上田杏菜)

「STEPS AHEAD」展スペシャルギャラリートーク

「STEPS AHEAD」展スペシャルギャラリートーク
本展担当学芸員によるスペシャルギャラリートークを公開中です。数ある出品作品の中から、オススメの藤島武二、倉俣史朗と田中信太郎、マルセル・デュシャン、オーストラリアのアボリジナル・アートをご紹介します。

ご視聴はこちら → Special Movie

マネ、セザンヌ、マティス、イサム・ノグチ、瀧口修造・・・芸術家たちの肖像写真を一同に

撮影:木奥惠三

撮影:木奥惠三

石橋財団は、アーティゾン美術館の開館を前に、新しいコレクションの分野として、芸術家の肖像写真を収集の対象とすることにしました。この機に収集されたのは、19世紀から20世紀初頭のフランスの芸術家の肖像写真コレクション(いずれもヴィンテージ写真です)、そして1970年代より国内外の現代美術の現場を捉えてきた写真家、安齋重男による写真コレクション、さらには1970年代のニューヨークで活躍する日本人芸術家の肖像をとらえたトム・ハールによる写真コレクションです。芸術家の素顔を捉えた数々の写真をこの機会に是非ご覧ください。(学芸課長:新畑泰秀)
ナダール(フェリックス・トゥールナション)エドゥアール・マネ(1832-1883) 年代不詳

ナダール(フェリックス・トゥールナション)エドゥアール・マネ(1832-1883) 年代不詳

ナカムラクニオとみる「STEPS AHEAD」展

ナカムラクニオとみる「STEPS AHEAD」展
ナカムラクニオとみる「STEPS AHEAD」展
 Part1 「カンディンスキーとクレー」
 Part2 「抽象表現主義の女性画家たちを中心に」

ナカムラクニオさんと巡るSTEPS AHEAD展のムービーを公開いたします。ナカムラさんは、東京・荻窪で「6次元」を主宰するアートディレクター。今回は、展覧会の中からナカムラさんが選んだカンディンスキー、エレイン・デ・クーニングを中心に、作家と作品をディープに、でもわかりやすく語っていただきました。

ご視聴はこちら → Special Movie

キュビスムのさらに先へ ジーノ・セヴェリーニ《金管奏者(路上演奏者)》

ジーノ・セヴェリーニ《金管奏者(路上演奏者)》1916年頃

ジーノ・セヴェリーニ《金管奏者(路上演奏者)》1916年頃

金管楽器を腕に抱えて街路に立つ奏者。その全身像は様々な形態のパーツに分解されており、そのひとつひとつが重なりながら繋がって、奏者の複雑なポーズや装束を構成しています。
この《金管奏者(路上演奏者)》という作品を描いたのは、イタリア人画家のジーノ・セヴェリーニ(1883-1966)。ちょうど、1909年頃から始まる芸術運動「未来派」に参加した後、拠点としていたパリで当時流行していたキュビスムを独自に咀嚼し、乗り越えようとしていた時期にあたります。各パーツの形態は幾何学的でありながら、全体として穏やかな調和を作り出しており、画家がキュビスム的な表現に導入しようとしていた古典主義の特徴をうかがわせます。パーツごとに異なる模様や描き込まれた文字など細部も豊かで、活き活きと華やいだ雰囲気を添えています。時代を席巻するキュビスムのさらに先へと、絵画表現を刷新しようと試みる、セヴェリーニのまさに意欲作というべき一点。ぜひお見逃しなく。(学芸員:島本英明)

モネとシスレーの計3点の作品を特別展示しています。

アルフレッド・シスレー《サン=マメス六月の朝》1884年

アルフレッド・シスレー《サン=マメス六月の朝》1884年

7月20日(火)より9月5日(日)まで、セクション1「藤島武二の《東洋振り》と日本、西洋の近代絵画」にて、以下の3点の作品の特別展示を行っています。
  • アルフレッド・シスレー《サン=マメス六月の朝》1884年
  • クロード・モネ《睡蓮の池》1907年
  • クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》1908年頃
当館の近代絵画コレクションのハイライト展示といえるこのセクションですが、会期終盤にいっそう充実した展観が実現します。どうかお見逃しなく。
【左】クロード・モネ《睡蓮の池》1907年 【右】クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》1908年頃

【左】クロード・モネ《睡蓮の池》1907年 
【右】クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》1908年頃

印象派の女性画家を知っていますか?

ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》1872年

ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》1872年

ベルト・モリゾの《バルコニーの女と子ども》は、19世紀後半、パリの最新ファッションを身に纏う母子が、急激な変化を遂げていくパリの街景を眺めている様子を描いた作品です。トロカデロ庭園、セーヌ河、シャン・ド・マルス公園が見えています。地平線の右側にはアンヴァリッドの金色のドームが素早く、活気のある筆づかいながら細部まできめ細やかに描かれています。STEPS AHEADの最初のセクションでは、モリゾのほか、メアリー・カサット、エヴァ・ゴンザレス、マリー・ブラックモンといった近年コレクションとなった印象派の女性画家たちの作品を一堂に展示しています。ぜひご覧ください。(学芸課長:新畑泰秀)

撮影:木奧惠三

オーストラリア現代美術 ― アボリジナル・アート新収蔵6点を初公開

撮影:木奧惠三

豊かな自然とゆったりとしたライフスタイルで広く知られる、オーストラリア。ですが、日本では紹介される機会がまだ少ないのが、オーストラリア美術。石橋財団では近年、オーストラリアの現代美術を収集しており、その中には先住民アボリジナル・アートが多く含まれています。古い歴史を背景に創り出された彼らの作品は、世代を超えて受け継がれてきた伝統と今を生きる作家の新しい感覚を取り込んで常に前進を続けています。本展覧会では4階の吹き抜けに、新収蔵のアボリジナル・アート6点を初公開しています。アボリジナル・アートがもつダイナミズムを、是非作品を前に体験してください。(学芸員:上田杏菜)

晩年のマティス愛蔵の素描を公開中

アンリ・マティス《ジャッキー》1947年

アンリ・マティス《ジャッキー》1947年

STEPS AHEAD展の終盤でひときわ強い存在感を放っているのが、アンリ・マティス(1869-1954)による1947年作の《ジャッキー》、画家が当時16歳の孫娘の顔をインクによる素描で表した作品です。
マティスは1939年に著した芸術論のなかで、自らの素描は自分の感動の直接の、もっとも純粋な翻訳であり、手段を単純化することでそれが可能となる、と述べています。《ジャッキー》の簡潔にして力の漲る線は、まさにこのマティスの言葉を裏づけるもので、モデルとの対峙から地続きに生み出される素描は、マティスにとって表現としての理想形のひとつであったといえるでしょう。
1948年の写真記録によると、この作品は晩年のマティスの住まいのひとつ、南仏ヴァンスのル・レーヴ(夢)荘の居室の壁を飾っていました。マティスの創作の真髄を味わえる素描作品が並ぶ貴重な機会、作家愛蔵の《ジャッキー》を中心に、ぜひお見逃しなく。(学芸員:島本英明)

ミロと瀧口修造の交流を物語る新収蔵図書

瀧口修造、ジョアン・ミロ『ミロの星とともに』1978年、リトグラフ、書籍

瀧口修造、ジョアン・ミロ『ミロの星とともに』1978年、リトグラフ、書籍
©Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 C3528

美術評論家で詩人の瀧口修造は、シュルレアリスムを日本に紹介したことで知られていますが、20世紀スペインの画家ジョアン・ミロについて、世界で初の単行本を書いた人物でもありました(瀧口修造『ミロ』アトリエ社、1940年3月)。実際に瀧口とミロが対面したのは同書の刊行から25年以上が経過した1966年まで時を待たねばなりませんでしたが、すぐに打ち解けた二人の交流はその後も続き、その友情はやがて詩画集の共同制作で実を結びます。『ミロの星とともに』(1978年)は瀧口の企画によるもので、彼の詩がレイアウトされた蛇腹折りの紙面に、ミロがグラフィックを綿密に構成するプロセスで制作されました。『手作り諺—ジョアン・ミロに』(1970年)は逆にミロの着想に基づくもので、ミロからの依頼で瀧口が詩を提供し実現した作品です。紙面の向こう側に2人の創造的な交流を感じながら、ご覧ください。(司書:黒澤美子)

瀧口修造、ジョアン・ミロ『手作り諺−ジョアン・ミロに』1970年、リトグラフ、7点組

瀧口修造、ジョアン・ミロ『手作り諺—ジョアン・ミロに』1970年、リトグラフ、7点組
©Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 C3528

デザイナーと美術家の親交と共作 倉俣史朗と田中信太郎

山中湖別荘で倉俣史朗(左)と田中信太郎(1990年)

山中湖別荘で倉俣史朗(左)と田中信太郎(1990年)
courtesy of Art Front Gallery

倉俣史朗と田中信太郎。デザイナー、造形作家として知られるふたりはクリエイターとして長く密接な関係にありました。田中は、倉俣が没して5年が経過した1996年に、自らは「30年もの永い間(倉俣の)かたわらに佇んでいた」と語っているほどです。1986年に京橋の旧ブリヂストン本社ビルが大規模な建築改修工事を行った時、1階ロビーの総合的な空間デザインを請け負った倉俣は、自らのデザインによる独創的な椅子を各所に配置しました。エレベーター・ホールに田中の《ソノトキ音楽ガキコエハジメタ》が設置されたのも、倉俣が田中に作品制作を呼びかけたことによるものでした。アーティゾン美術館は、開館を前にして、ブリヂストンビルにあった倉俣による一群の椅子と田中の彫刻を、そして田中が2019年に急逝した翌年には、田中の1985年以降の立体・平面作品を新たなコレクションに迎えました。このセクションでは、それら作品の一部を紹介しています。是非ご覧ください。(学芸課長:新畑泰秀)

手前:倉俣史朗《ガラスのベンチ》1986年 奥:田中信太郎《ソノトキ音楽ガキコエハジメタ》1986年

手前:倉俣史朗《ガラスのベンチ》1986年
奥:田中信太郎《ソノトキ音楽ガキコエハジメタ》1986年

日本の前衛美術運動「具体」で活躍した元永定正の新収蔵作品を初公開

元永定正《無題》1965年

元永定正《無題》1965年
© Motonaga Archive Research Institution Ltd.

‘GUTAI’として世界でも認知され、再評価が進む「具体」。これは1954年に、兵庫県芦屋で結成された前衛美術運動、具体美術協会です。元永定正も「具体」のメンバーとして15年以上活動を行い、国際的に評価を高めた作家です。石橋財団は、2020年に元永の具体時代の作品《無題》(1965年)を新たに収蔵しました。傾けたカンヴァスに絵具を直接流し込み、たれ流された跡を画面上に残す元永独自の手法が存分に発揮されています。原色を使用しダイナミックで躍動感に満ちた作品は、4階展示室に展示されています。(学芸員:上田杏菜)

国内では貴重な機会 ヘレン・フランケンサーラー初期の絵画作品を公開中

ヘレン・フランケンサーラー《ファースト・ブリザード》1957年

ヘレン・フランケンサーラー《ファースト・ブリザード》1957年
© 2021 Helen Frankenthaler/ARS, N. Y./ JASPAR, Tokyo C3439

ジャクソン・ポロックやウィレム・デ・クーニングが代表格として紹介されることの多いアメリカの抽象表現主義の動向ですが、女性画家たちが示した存在感も見逃せません。ヘレン・フランケンサーラー(1928-2011)もそのひとりです。
1950年頃に画業をスタートしたフランケンサーラーは、この動向のいわゆる第2世代として、特にポロックの影響下に抽象絵画の刷新に取り組んだ画家です。1952年に、地塗りを施していないカンヴァスに絵具を浸透させる「ソーク=ステイン」と呼ばれる技法を創出。その5年後に制作された《ファースト・ブリザード》は、随所にステインのテクニックをのぞかせつつ、多様な筆致の組み合わせが図られており、画家の飽くなき探求の姿勢をよく示す作品です。フランケンサーラーの油彩、しかも意気盛んな初期の作品が展示される機会は、日本ではまだ希少です。この機会をぜひお見逃しなく。(学芸員:島本英明)

アンリ・マティスの孫娘ジャッキー・マティス=モニエさんが5月17日にご逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。

アンリ・マティス《ジャッキー》1947年

アンリ・マティス《ジャッキー》1947年

STEPS AHEAD展のアンリ・マティスのセクションでご紹介している素描作品《ジャッキー》(1947年)のモデルとなった、マティスの孫娘ジャッキー・マティス=モニエさんが 2021年5月17日にご逝去された、との報がパリよりありました。御冥福をお祈り申し上げます。当時16歳の頃の彼女を描いた《ジャッキー》においては、画家の愛する孫娘の愛らしい表情が単純ながら勢いのある筆使いで一気に描きあげられています。

アール・ブリュットの作例を見てとれる挿絵本を紹介

ジャン・デュビュッフェ《ミリヴィ・デ・ナチュルジ》1963年、リトグラフ

ジャン・デュビュッフェ《ミリヴィ・デ・ナチュルジ》1963年、リトグラフ
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 C3528

今回の展示では書籍がたくさん展示されています。そのなかのひとつ『ミリヴィ・デ・ナチュルジ』はアール・ブリュットの好例と言える挿絵本です。20世紀フランスの画家ジャン・デュビュッフェが手がけました。アール・ブリュットとは、デュビュッフェが既存の価値観に縛られない芸術や美術教育を受けていない作家の無垢な作品を評価して名付けた芸術です。デュビュッフェ自身も、その様式を応用して作品を制作しました。一風変わった本書のタイトルは、フランスの詩人アンドレ・マーテルがつくった造語で「自然のほとばしりの様相の見事な鏡」を意味します。挿絵には、革や石などの表面を擦り出すフロッタージュの技法が見てとれます。タイトルが指すとおり、自然界にあるさまざまな模様が生(き)のままに写し出された本書の挿絵からは、アール・ブリュットの作品が持つ力強さを感じることができるでしょう。(司書:黒澤美子)

キュビスムの画家、ジャン・メッツァンジェを知っていますか?

ジャン・メッツァンジェ《円卓の上の静物》1916年

ジャン・メッツァンジェ《円卓の上の静物》1916年

キュビスムの画家と言えばピカソとブラックが思い浮かびますが、他にも多くの画家たちがこれに挑みました。ジャン・メッツァンジェ(1883-1956)もその代表的な画家の一人です。アーティゾン美術館は、メッツァンジェによる《キュビスム的風景》(1911-12年)と《円卓の上の静物》(1916年)をあらたに収蔵し公開しています。 《円卓の上の静物》は、キュビスムが1910年代半ばに極度に発展して混乱したイメージになってしまったゆえに、構図に秩序を取り戻そうとした作品です。幾何学的形態の平面が重なり合うこの様式は、クリスタル・キュビスムとも呼ばれます。展覧会には他にも様々な作品が展示されています。キュビスムのヴァリエーションをお楽しみください。(学芸課長:新畑泰秀)

ジャン・メッツァンジェ《キュビスム的風景》1911-12年

ジャン・メッツァンジェ《キュビスム的風景》1911-12年

オーストラリア現代美術−アボリジナル・アート
「不確かな未来を生き、故郷を思い続けた」−マダディンキンアーシー・ジュウォンダ・サリー・ガボリ《祖父の国》

マダディンキンアーシー・ジュウォンダ・サリー・ガボリ《祖父の国》2011年

マダディンキンアーシー・ジュウォンダ・サリー・ガボリ《祖父の国》2011年
© COPYRIGHT AGENCY, Sydney & JASPAR, Tokyo, 2021 C3439

自然災害によって故郷を離れる悲しさは、国を越えて共通する感情でしょう。自然災害によって故郷を追われ、不確かな未来を生きながら故郷を思い続けたのが、オーストラリア先住民アボリジナル・アーティストのサリー・ガボリです。彼女の故郷は、クイーンズランド北西部に位置するベンティンク島です。しかし1948年に、大型のサイクロンと高潮によって真水を供給する場が失われ、島民は近隣のモニントン島に移住を強いられました。タイトルの《祖父の国》は、故郷ベンティンク島の南側に位置する小島を指します。画面を大きく占める赤色が小島で、黒で描かれた部分は、熱帯地域の激しいストーム、荒れた海、どんよりとした空といったこの地域の雨季の様子を表しています。赤と黒の色彩の一部が白と混ざり合いぼやけた輪郭は、記憶の中の故郷という感覚を呼び起こす効果を生んでいます。(学芸員:上田杏菜)

カンディンスキーの重要図書を公開

ヴァシリー・カンディンスキー『響き』ピーパー社、ミュンヘン、1913年

ヴァシリー・カンディンスキー『響き』ピーパー社、ミュンヘン、1913年

石橋財団は作品だけでなく所蔵品にかかわる貴重図書資料の収集も続けています。そこで今回の展示では、そうした貴重書もあわせて展示しました。作品と一緒にならぶ書物を通して、「作家はこの時期にこんな本を書いていたんだ」とか、「こんな挿絵を描くんだ」といった発見があり、作品がまた違って見えてくるのではないでしょうか。例えば、ヴァシリー・カンディンスキーの作品とあわせて展示している彼の理論書『抽象芸術論』(1912年)や挿絵入詩集『響き』(1913年)は、彼が絵画制作だけではなく言葉も用いて抽象芸術の道を切り開いていたことを教えてくれ、複製され各地に行き渡る本を通しても他の作家たちに影響を与えていたことを想像させてくれます。展示室の随所に散りばめられた本たちにも、今回ぜひ注目してみてください。(司書:黒澤美子)

ヴァシリー・カンディンスキー『抽象芸術論 芸術における精神的なもの』ピーパー社、ミュンヘン、1912年

ヴァシリー・カンディンスキー『抽象芸術論 芸術における精神的なもの』ピーパー社、ミュンヘン、1912年

1930年代から1950年代まで、計8点の作品を新収蔵―ジョアン・ミロ

ジョアン・ミロ《夜の女と鳥》1945年

ジョアン・ミロ《夜の女と鳥》1944年
©Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 C3439

スペイン生まれの画家、ジョアン・ミロ(1893-1983)は、画業の初期よりヨーロッパのシュルレアリスムの運動を背景に高く評価された一方で、1940年代以降はアメリカでも存在感を高めていきます。その強い影響を受けたのが、ジャクソン・ポロックら、第二次大戦後に抽象表現主義の動向を形成する画家たちでした。STEPS AHEAD展では、計8点のミロの新収蔵作品をセクション5「抽象表現主義の女性画家たちを中心に」の中で紹介しています。1930年代の希少な版画作品から1950年代の油彩作品まで、同時代美術との呼応をうかがわせる多様な作品群を通じて、20世紀美術の舞台で縦横に躍動するミロの姿が浮かび上がってきます。(学芸員:島本英明)

ジョアン・ミロ《絵画》1952年

ジョアン・ミロ《絵画》1952年
©Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2020 C3379

アンリ・マティスの作品16点と重要文化財含む中国陶磁器と日本近世美術のコーナーは5月9日(日)まで
(臨時休館のため、展示終了)

STEPS AHEAD展の会期が9月5日(日)まで延長決定!ですが、5月9日(日)までで展示を終了してしまう作品もあります。マティスの新収蔵素描作品6点を含む計16点が展示されているセクション13「アンリ・マティスの素描」と、重要文化財を含む中国陶磁器と日本近世美術のコーナーは、5月9日まで。マティスの作品は一部展示を続行しますが、16点もまとまって展示される機会は、もう残りわずかです。アーティゾン美術館は、日時指定予約制なので会期が迫ってもゆったりと展示を楽しめますよ。(学芸員:上田杏菜)

*緊急事態宣言の発出に伴う臨時休館により、この展示は終了しました。

図版上:セクション13「アンリ・マティスの素描」の展示風景、図版下:中国陶磁器と日本近世美術のコーナー
撮影:木奥惠三 *共に5月9日までの展示風景です

中国陶磁器の名品を展示 5月9日(日)まで
(臨時休館のため、展示終了)

中国 龍泉窯《青磁鉄斑文瓶(飛青磁花瓶)》元時代14世紀

中国 龍泉窯《青磁鉄斑文瓶(飛青磁花瓶)》元時代14世紀

《青磁鉄斑文瓶(飛青磁花瓶)》(せいじてっぱんもんびん(とびせいじかびん))(元時代14世紀)は、天龍寺青磁のひとつです。このような鉄斑文が入ったものは別格の扱いを受けています。一般に「飛青磁(とびせいじ)」と呼ばれ、釉下に鉄斑を散らして装飾がなされています。簡素で自然な美しさを求める青磁の作風と、人為的な加飾とを高い次元で融合させた青磁の名品で、重要文化財に指定されています。
《緑地紅彩宝相華唐草文瓢形瓶》(りょくじこうさいほうそうげからくさもんひさごがたびん)明時代 嘉靖年間(1522-1566)につくられた磁器です。緑地に紅彩で花唐草文様を密に描き、一部に霊芝唐草と線唐草の帯文が施される緑地紅彩と呼ばれる五彩作品で、濃厚な赤と緑が印象的な作品です。類品は世界にも数点しかありません。
いずれの作品も、5月9日(日)までの展示となっています。どうぞお見逃し無く。(学芸員:新畑泰秀)

*緊急事態宣言の発出に伴う臨時休館により、この展示は終了しました。

中国 景徳鎮窯《緑地紅彩宝相華唐草文瓢形瓶》明時代 嘉靖年間

中国 景徳鎮窯《緑地紅彩宝相華唐草文瓢形瓶》明時代 嘉靖年間

マティスの世界に浸る素描・油彩あわせて16点による展示 5月9日(日)まで
(臨時休館のため、展示終了)

アンリ・マティス《女、フリルの襟》1938年

アンリ・マティス《女、フリルの襟》1938年

STEPS AHEAD展の最後を飾るのが、「アンリ・マティスの素描」。新収蔵の6点を含む素描8点が主役のセクションで、モデルを前にした感覚を簡潔な線描に表したマティス独自の素描の魅力を存分に味わっていただけます。この部屋には、初期から1930年代までの油彩作品8点も展示されており、マティスの創作が凝縮された空間になっています。このマティスのセクションは9月5日(日)の展覧会閉幕まで継続しますが、作品の状態保全上、現在の計16点による展示は5月9日(日)までとなります。ぜひ、お見逃しなく。(学芸員:島本英明)

*緊急事態宣言の発出に伴う臨時休館により、この展示は終了しました。

アンリ・マティス《縞ジャケット》1914年

アンリ・マティス《縞ジャケット》1914年

オーストラリア現代美術ーアボリジナル・アート
「地球の中心、すべての始まり」ージンジャー・ライリィ・マンドゥワラワラ《四人の射手》

ジンジャー・ライリィ・マンドゥワラワラ 《四人の射手》 1994年

ジンジャー・ライリィ・マンドゥワラワラ 《四人の射手》 1994年
© The Estate of Ginger Riley. Courtesy of Alcaston Gallery, Melbourne

世界でも古い歴史を持つオーストラリア先住民アボリジナル・アート。みなさんは、どれくらい古いと思いますか?実は、今年オーストラリア西部で新発見された洞窟壁画はなんと国内最古の約1万7千年前!脈々と現在まで続くアボリジナル・アートは、世代を超えて受け継がれてきた伝統と現在を生きる作家の新しい感覚を取り込んで常に前進を続けています。例えばジンジャー・ライリィ・マンドゥワラワラの《四人の射手》は、伝統的な主題を用いながら、斬新に画面を構築し実験的なスタイルで表現することに成功しています。作品のタイトルにもなっている≪四人の射手≫は一組の風化岩を指し、この作品では風化岩は赤い4つの突起物として画面中央に描かれています。マンドゥワラワラは、この風化岩を「地球の中心であり、すべてのものがここから始まり、ここで終わる。」と表現しました。(学芸員:上田杏菜)

アートの概念の刷新−ジャン・デュビュッフェ《泥の中の顔》

ジャン・デュビュッフェ《泥の中の顔》1946年

ジャン・デュビュッフェ《泥の中の顔》1946年
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 C3452

STEPS AHEAD展では、20世紀美術の多様な姿を紹介していますが、フランス人画家のジャン・デュビュッフェ(1901-85)による作品もそのひとつです。収蔵後、今回が初公開となる《泥の中の顔》では、様々な物質を混ぜて作られた画面に、輪郭線を彫り出すかのように人物像が描かれています。この作品が制作され、「ミロボリュス、マカダム商会:ジャン・デュビュッフェの厚塗り」と題された個展で発表されたと考えられるのが、第二次大戦直後の1946年。伝統に反する手法と人物像は、まさに戦後の訪れにあわせて、アートの概念を刷新するものでした。この機会にぜひ、ご鑑賞ください。(学芸員:島本英明)

アルベール・グレーズの頭の中をのぞきこめる貴重図書を公開

アルベール・グレーズ《手袋をした女》

アルベール・グレーズ《手袋をした女》1922年頃

謎めいた絵に出会うと、「作家はどんな思いで描いたのだろう」と思いませんか?今回初公開の《手袋をした女》は、幾何学的な形の組み合わせで物や人が描き表された不思議な絵です。20世紀フランスのキュビスムの画家、アルベール・グレーズによって描かれました。彼は絵筆を握る一方、絵の描き方や、芸術はこうあるべきという考えを言葉で書き表すことにも熱心な画家でした。そこで今回、残された数々の著作から『キュビスムについて』(1912年、ジャン・メッツァンジェとの共著)や『絵画とその諸法則』(1924年)など代表作を選び、4階のインフォルームで紹介しています。インフォルームは、最後の展示室を出て数メートル歩いたところにあります。ぜひお立ち寄りいただき、本を通して作家の頭のなかをのぞいてみてください。(司書:黒澤美子)

アルベール・グレーズ『絵画とその諸法則』ラ・ヴィー・デ・レットル・エ・デザール、パリ、1924年

アルベール・グレーズ『絵画とその諸法則』ラ・ヴィー・デ・レットル・エ・デザール、パリ、1924年

オーストラリア現代美術ーアボリジナル・アート

ノウォンギーナ・マラウィリィ《ボウンニュー》2016年

ノウォンギーナ・マラウィリィ《ボウンニュー》2016年
© The Artist, Buku Larrŋgay Mulka, NT and Alcaston Gallery, Melbourne

カンガルー、コアラ、グレート・バリア・リーフにオペラ・ハウスなど、旅行先に人気の高いオーストラリア。でもオーストラリア美術は、じつはまだまだ日本では紹介される機会は少ないのではないでしょうか。石橋財団では、近年オーストラリア現代美術を収集しており、その中心となっているのが先住民アボリジナル・アートです。本展覧会ではそのアボリジナル・アート6点すべて新収蔵作品を、初公開しています。アボリジナル・アートを代表する作家ノウォンギーナ・マラウィリィが描く《ボウンニュー》は、オーストラリアに自生するユーカリの樹皮に描かれた作品です。上下に歪んだ長方形の樹皮の表面は緩やかに波を打ち、その有機的な凹凸と、画面いっぱいに描かれた模様が、作品に独特の雰囲気を与えています。(学芸員:上田杏菜)

カンディンスキーのムルナウ時代の作品《3本の菩提樹》を初公開

ヴァシリー・カンディンスキー《3本の菩提樹》1908年

ヴァシリー・カンディンスキー《3本の菩提樹》1908年

ヴァシリー・カンディンスキーの《3本の菩提樹》を初公開しています。あまりに直前の収蔵だったので、チラシなどの事前の広報ではお伝えすることができなかった作品です。1908年、カンディンスキーは、そのパートナー、ガブリエル・ミュンターとともにアルプスの麓シュタッフェル湖畔にある、ムルナウという美しい小村に滞在していた時に描いた作品です。この頃、画家は自らの絵画の抽象化のまっただ中にありました。この作品は陽光を浴びて色とりどりに輝く情景が、ダイナミックな筆触で描かれており、画家の抽象への意識が明確に示されています。カンディンスキーは直後の1911年に盟友フランツ・マルクとともに青騎士を結成し、その展覧会で新たな絵画表現を世に示すことになります。(学芸員:新畑泰秀)

藤島武二の《東洋振り》を初公開

藤島武二《東洋振り》1924(大正13)年

藤島武二《東洋振り》1924(大正13)年

藤島武二の《東洋振り》を初公開しています。藤島は1924(大正13)年から1927(昭和2)年にかけて中国服を着た横向きの女性像を描き、展覧会で次々に発表しました。《東洋振り》はその最初の作品です。中国趣味が反映されている一方で、横顔の女性像はルネサンスの絵画に喚起されたものだといいます。いわばこの絵の中で東洋と西洋の統合が図られているのです。
本作品は、藤島武二の代表作で共に重要文化財である《天平の面影》(1902年)と《黒扇》(1908-09年)と一緒に、展覧会の最初の部屋に展示されています。ぜひご覧ください。(学芸員:新畑泰秀)

藤島武二《黒扇》(1908-09年)

藤島武二《黒扇》1908-09年