写真が発明され普及し始めた19世紀後半より、絵画は、印象派をひとつの起点として大きな変革を繰り返しましたが、そのモチベーションには写真の存在が少なからずありました。他方写真は、その黎明期より、美術作品として記録的な目的ではない、絵画的な表現が模索され続けてきました。しかしそれらは、互いの単純な表現模倣に留まるわけではなく、相互に影響を与え、与えられて、それぞれの特徴を活かした発展が続けられてきました。
自然の中の人工的な構造物を題材に、絵画との関係を意識して形態を単純化し、モティーフを浮かび上がらせることで、見る者の想像力に働きかける柴田敏雄。水のある情景や樹木、雪、人物といった対象を、写真機の知覚を通して、人間がものを「見ること」への問題意識を提示する鈴木理策。ふたりの作家にとって、ポール・セザンヌの、自然に即しながら自己の視覚的感覚を実現することを試みた芸術家としての態度とその革新的な作品は、活動の初期より重要な参照であり続けました。その写真作品には、人がものをどう見て、どう考え、どう表現するかという、モダニズム絵画と共通する確かな造形思考があり、それを写真の特性により、それにしか出来ない表現を成し遂げています。
この展覧会は、写真を作品創造のメディアとして選んだふたりの作家が、セザンヌの絵画作品を起点に、現代の写真と絵画の関係を問う試みです。柴田は藤島武二、アンリ・マティス、ピート・モンドリアン、ヴァシリー・カンディンスキーや円空、鈴木はギュスターヴ・クールベ、クロード・モネ、ピエール・ボナールやアルベルト・ジャコメッティといった絵画の視点を織り交ぜて、写真を通じて作品の特異性とその魅力を提示いたします。
展覧会は6つのセクションで構成されます。4つのセクションでは新作を含めた両作家の作品が石橋財団のコレクションとともに展示されます。セザンヌのセクション、雪舟のセクションでは3者の作品の共演が行われます。柴田、鈴木両名の新作・未発表作品約130点を含む約240点と、石橋財団コレクションより約40点、計280点を超える作品で構成いたします。
石橋財団コレクションは、創設者・石橋正二郎の個人収集から始まり、その後、公益財団法人石橋財団によって引き継がれました。現在約 3,000 点を数えるコレクションは、西洋絵画、日本近代洋画をはじめとして、西洋・東洋の彫刻や陶磁器、中国・日本書画にまで渡り、さらに 20 世紀美術、現代美術にまで視野を広げています。
ジャム・セッションは、アーティゾン美術館のコンセプト「創造の体感」を体現する展覧会です。アーティストと学芸員が共同して、石橋財団コレクションの特定の作品からインスパイアされた新作や、コレクションとアーティストの作品のセッションによって生み出される新たな視点による展覧会を構成します。過去から現代、次代へ向けての架け橋となるプロジェクトを目指します。今後も、毎年一回開催する予定です。
所蔵の記載がない写真作品は全て作家蔵
絵画作品は全て石橋財団アーティゾン美術館蔵