見どころ・作家紹介

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    現代日本を代表するアーティストの
    国内初となる大規模展

    毛利悠子は、彫刻、音、動きなどを組み合わせることで、空間にただよう「見えない力/事象」に形を与え、わたしたちに感受可能なものに変換する作品で知られています。近年数多くの国際展に参加し、世界のアートシーンで注目を集める毛利は、現代美術のオリンピックと呼ばれる「ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」、第60回(2024年4月20日11月24日)における日本館展示に選出されました。

    そんな彼女の活動を、アーティゾン美術館の空間に合わせてアップデートする既発表作品と、コレクション作品からインスピレーションを得た新作を交えて、国内では初となる大規模なスケールで紹介します。

    ※ 本展は第60回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示の帰国展ではありません。
    毛利悠子《Calls》2013年–、「MEDIA/ART KITCHEN—ユーモアと遊びの政治学」展示風景、2014年、国際芸術センター青森写真:Kuniya Oyamada
    毛利悠子《Calls》2013年–、「MEDIA/ART KITCHEN—ユーモアと遊びの政治学」展示風景、2014年、国際芸術センター青森
    毛利悠子《Calls》2013年–、「MEDIA/ART KITCHEN—ユーモアと遊びの政治学」展示風景、2014年、国際芸術センター青森写真:Kuniya Oyamada
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    時代を超えて交わる自然へのまなざし:
    「動き」や「音」を通じて

    2020年の開館以来、現代アーティストとコレクション作品の共演を届けてきた「ジャム・セッション」展。「ジャム・セッション」は、元来ミュージシャンが集まって即興的な演奏を行うことを意味していますが、今回迎える毛利悠子は、デビュー当時から類語の「インプロヴィゼーション(即興演奏)」を創作におけるキーワードのひとつとしてきました。構成/作曲された音楽から逸脱していく現代/実験音楽の「エラー」や「フィードバック」も毛利の作品空間には組み込まれています。そんな音楽的モチーフを通して振幅やゆらぎ、変動や不確定さを重視する作家の観点から選ばれた近代の作品群は、「動き」や「音」をともなった毛利作品と併存することで、これまで見えてこなかった表情を見せ始めます。

    クロード・モネ、アンリ・マティス、パウル・クレー、ジョルジュ・ブラック、マルセル・デュシャン、ジョゼフ・コーネル、藤島武二といった作家たちと毛利の、時代を超えた創造性の交わりをお見せします。

    毛利悠子《めくる装置、3つのヴェール》2018年–、「キュレトリアル・スタディズ 12:泉/Fountain1917–2017 Case5:散種 by 毛利悠子」展示風景、2018年、京都国立近代美術館写真:Yuki Moriya
    毛利悠子《めくる装置、3つのヴェール》2018年–、「キュレトリアル・スタディズ 12:泉/Fountain1917–2017 Case5:散種 by 毛利悠子」展示風景、2018年、京都国立近代美術館
    毛利悠子《めくる装置、3つのヴェール》2018年–、「キュレトリアル・スタディズ 12:泉/Fountain1917–2017 Case5:散種 by 毛利悠子」展示風景、2018年、京都国立近代美術館写真:Yuki Moriya
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    切迫する環境問題への「アート思考」

    SDGs(2015年の国連総会で採択された、2030年までに達成されるべき持続可能な開発目標)が多くの企業や行政で共有されている現在は、翻って言えば、我々が深刻な地球環境の危機に直面していることを意味しています。大量生産・大量消費を是とし、「コントロール/制御」を軸に効率重視で発展してきた産業を中心とする社会がもたらす複合的な環境問題に対して、これまでとは異なった思考法が要請されています。

    また、明確なゴール設定や効率性を重視しない、まごつきやリフレーミングといった迂回路に導く創造性を培う「アート思考」が、近年ビジネスや教育の現場で注目されています。「エラー/不制御」や即興的な展開、磁力や電流、空気や埃、水や温度といった微細な環境の要素を作品に取り入れる毛利の姿勢は、大きすぎあるいは小さすぎて見えない流れ/変化に対する私たちの感度を高め、環境問題とその課題への向き合い方のささやかなヒントとなるでしょう。

    毛利悠子《Pleated Image》2016年–
    毛利悠子《Pleated Image》2016年–
    毛利悠子《Pleated Image》2016年–

作家紹介

毛利悠子
写真:kugeyasuhide

毛利悠子
1980年神奈川県生まれ。現在は東京を拠点に活動。2006年に東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻を修了。
コンポジション(構築)へのアプローチではなく、環境の諸条件によって変化してゆく「事象」にフォーカスするインスタレーションや彫刻を制作。近年は映像や写真を通じた作品制作も行う。
2015年、アジアン・カルチュラル・カウンシルの助成にてニューヨークに6か月滞在。同年、日産アートアワードでグランプリを獲得。2016年、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館および、カムデン・アーツ・センター(いずれも英国)にそれぞれレジデンスとして滞在。2018年、東アジア文化交流使として中国の4都市を訪問。2019年、アンスティチュ・フランセのレジデンスとしてパリに3か月滞在。
主な個展に第60回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館「Compose」(2024年)、カムデン・アーツ・センター(ロンドン、2018)、十和田市現代美術館(青森、2018-2019)での個展のほか、「第14回光州ビエンナーレ」(2023年)、「第23回シドニー・ビエンナーレ」(2022年)、「アジア・アート・ビエンナーレ 2021」(台中)、「第34回サンパウロ・ビエンナーレ」(2021年)、「グラスゴー・インターナショナル 2021」、「第9回アジア・パシフィック・トライエニアル」(2018年)、「第14回リヨン・ビエンナーレ」(2017年)、「コチ=ムジリス・ビエンナーレ」(2016年)など国内外の展覧会に参加。