拡大《水浴の前》

岡田三郎助

《水浴の前》

1916年  油彩・カンヴァス

岡田三郎助は、幼少の頃に父とともに上京し、東京麹町区葵坂の旧藩主鍋島直大邸内で少年期を過ごしました。直大侯側近で、洋画家でもあった百武兼行の作品に接し、イタリアから送られてきた絵具を自由に使わせてもらえる環境の中で洋画を志すようになります。同郷の久米桂一郎を介して、黒田清輝に出会い、明快で明るい色調の画風を習得しました。1896(明治29)年、白馬会結成に携わり、創設された東京美術学校西洋画科の助教授に就任します。翌年、第1回文部省留学生として渡仏し、黒田、久米の師でもあるラファエル・コランのもとで、古典的な写実描写を基本とし、戸外の明るさを取り入れた温和な色彩の中に画面を調和させようとする外光表現を学びました。
1916(大正5)年、第10回文展に出品されたこの作品は、油彩で描かれていますが、裸婦の肌はパステルのような柔らかな筆触で表現されており、外光表現としての肌の描き方に画家の努力がうかがえます。帰国後の岡田は、4年の西欧留学で学んだことと日本の伝統的な風俗や美意識を調和させることを意識しました。水辺に立つ黒髪の裸婦は日本女性を、ピンクと紺色の布の存在は西洋の伝統的な水浴図を踏襲した作品であることを想起させます。岸辺に咲く松虫草の花言葉から、この作品を悲恋の物語と結びつける説もあります。

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