建築・デザインについて

施設概要

アーティゾン美術館は旧ブリヂストン美術館のDNAを受け継ぎ、都心にある中で親しみやすい美術館施設を目指しました。新しい美術館は母体となる「ミュージアムタワー京橋」の低層階(1F~6F)となり、展示室(4F~6F)の総面積を旧来のおよそ2倍の約2,100㎡に増床し、エントランスロビーなどの共有スペースを含め大幅に拡張しています。( 延べ面積: 6,715㎡ )
アーティゾン美術館は都市型の美術館として縦に層を重ねる6階建ての構成で、大きく下3階部分(1F~3F)をフリーゾーン、また上3階部分(4F~6F)を展示室ゾーンに分けています。
施設概要
施設概要

建築・設備・デザインの特徴

事業継続への取り組み

「ミュージアムタワー京橋」は、震災による被害を最小限に抑えるため、防災や事業継続の観点から免震構造を採用し、万が一の停電時にも電力を72時間供給可能とする非常用発電機を設置しています。また、受変電設備、非常用発電機および熱源設備等をビルの8F~9Fに設置し、洪水や津波などの水害からも建物の機能を維持するよう配慮されています。同様に美術館展示室も作品保護の観点から4F~6Fに配し、インフラにおいても美術館の事業継続を確保しています。
建築・設備・デザインの特徴ミュージアムタワー京橋
地下に設置された免震ゴム地下に設置された免震ゴム

開かれた空間の創出

施設概要

事業継続への取り組み

八重洲通り側に面していた旧美術館の正面入口を、メインストリートである中央通り側に移動し、さらに入口まわりに広場を設けることで、分かりやすく入りやすい美術館を体現しています。

1F~2F を大ガラスで囲み一体化

美術館入口となる1F~2Fを高さ8mの高透過大型ガラスで囲み、吹き抜けで一体化しました。これにより外部から内部を見渡せる開かれた大空間を創出しています。中でも1Fカフェ部分の大型ガラス9枚は電動回転扉とし、ガラス扉を開けることで外部と内部をつないだ開放感あふれるオープンカフェになります。
1F1F
5F 展示室の吹き抜け(4F 展示室を見下ろせる)5F 展示室の吹き抜け(4F 展示室を見下ろせる)
最新の置換空調による展示室環境

最新の置換空調による展示室環境

展示室の空調はフローリング床の目地(5mm)を吹き出しに利用した新しい置換空調システムです。床全体から新鮮で温湿度の安定した空気をゆっくりと吹き出し、上部の空気を押し上げて天井から換気します。エネルギー効率に優れ、気流感や温湿度ムラのない室内環境を実現する人と美術品に優しい空調システムです。
LED スポットライトのオリジナル開発

LED スポットライトのオリジナル開発

アーティゾン美術館では展示室照明に自由度をもたせ、最適な演出を可能にするために、高品質LEDスポットライトを株式会社YAMAGIWAと共同開発しました。超高演色VIOLED(紫LED)を使用し、調光・調色(2,700K~4,500K)が可能な仕様です。さらに無線システム制御を採用することで、タブレット端末にて個別に制御可能で、天井高のある展示室での作業性を向上させました。細部にわたる使いやすさとデザインの両立を図った次世代のスポットライトです。

最新鋭の展示ケースを備えた空間づくり

アーティゾン美術館では、展示作品領域の拡大に合わせ、古美術等のための展示ケースを備える空間を4Fに設置しました。収蔵する屏風などの鑑賞に理想的でシームレスな環境をつくるため、展示ケースでは画期的な横幅15mの継ぎのない高透過合わせガラスを採用。また照明は、有機EL照明など最新鋭のシステムを組み込み、理想的な照明環境での展示を可能としました。
4F 展示室4F 展示室
15m 一体ガラスの展示ケース15m 一体ガラスの展示ケース

開かれた先進の美術館

デジタル化への取り組み

デジタル化への取り組み

当館では従来よりコレクションやその周辺情報のデジタル化に取り組んできました。2016年にはITプロジェクトを立ち上げ、情報の安全管理や業務の効率化を図るとともに、来館者の知的好奇心を刺激する開かれたデータの提供を可能にする仕組みや、インフラの検討を行ってきました。その結果、美術館が保有する作品や展覧会などのデータ・アーカイブを整備し、それを結合して情報提供するシステム(クラウド環境)を構築しました。
フリー Wi-Fi 化による情報提供

フリー Wi-Fi 化による情報提供

当館が保有する作品や展覧会に関する、多様で高精細な画像やデータを、4Fインフォルームの端末や4F・5Fに設置したデジタルコレクションウォールでご覧いただけます。また館内のWi-Fi化により、アーティゾン美術館のアプリをダウンロードしていただければ、お客様のスマートフォンで音声ガイドや作品解説を楽しんでいただけます。
デジタルコレクションウォールデジタルコレクションウォール

先進の美術館であり続けるために

昨今、組織がもつデータを公開し、その用途を広げ役に立てる「オープン・データ・イノベーション」の流れがあります。当館もこれを志向し、データの整備を行っていきます。また、「創造の体感」という美術館コンセプトのもとにこれらデータと最新のテクノロジーを組み合わせたクラウド・コンピューティング環境を活用し、展覧会や事業などで様々な試みを展開します。
Crystal LEDディスプレイCrystal LEDディスプレイ

デジタルサイネージの設置

石橋財団コレクションを直感的に体感できるチームラボによる「デジタルコレクションウォール」を、4F・5Fの展示ロビーに設置しました。また1FエントランスロビーにはSONY社製の「Crystal LEDディスプレイ」を設置し、作品画像やその他情報の大型の超高精細画像放映を可能にしました。

素材と細部にこだわる

外装デザイン

外装デザインは中央通りに並ぶ建築や周辺との調和と現代性のバランスを重視し、普遍性のあるデザインとしました。美術館の顔を印象づける縦格子や壁面に表面をリン酸処理したスチールパネルを採用し、瓦や硯のような色と質感により上質感を表現しました。
石壁パターン張りと円柱

石壁パターン張りと円柱

1Fエントランスの壁面と同様の御影石正方形パターンを用いた外部円柱は直径1.8m、高さ8mで、先頭の1本は外部からそのまま3F~5Fの16.5mの内部吹き抜けに出現する石柱オブジェとして空間内に続きます。まるで建築を貫く大木のような円柱は円、アーティゾン美術館のシンボルとして機能します。

内装デザイン

親しみやすく開かれた美術館の印象をつくるために、現代的かつ人の持つ温かみを意識し、素材にこだわりました。
テラゾー(人造大理石) のタイルと自然石(1F)

テラゾー(人造大理石) のタイルと自然石(1F)

1F床材にテラゾーの大型タイル(1,200mm 角)をオリジナル開発し、床面には白いラインが走るデザインを施しています。1F壁面には黒御影石やインド砂岩等の自然素材を使用し、石表面の仕上げを微妙に変え全体に柔らかさを与えています。
真鍮カットパネルの壁面真鍮カットパネルの壁面

真鍮の壁面パネル(3F~6F)と間接照明

3F~6Fの壁面パネルには、バイブレーション研磨した無垢の真鍮カットパネルを採用し、温かみのある柔らかな金色の輝きを醸し出しました。内装の特徴的な仕上として各階とエレベーター内部などに使用しています。さらに内装の決め手となる照明には、壁面間接照明を採用し、柔らかい光のグラデーションで壁面を照らして立体感と奥行き感、そして空間の連続性を強調しています。

オリジナル家具の製作

空間すべてをオリジナルでデザインしたように、家具もオリジナルデザインによって制作しました。カフェを中心とした木製のアームチェアをはじめ、四方から座れる展示室のソファ、造作家具など、親しみやすい美術館のために隅々までデザインしています。
オリジナル家具の製作
オリジナル家具の製作

デザインコレクション

アーティゾン美術館には他では見られないデザインコレクションがあります。そのひとつは日本のインテリアデザインを牽引した倉俣史朗(1934〜1991)による家具の展示。6階展示室入口のロビーに誰もが座れるように設置しています。エキスパンドメタルを使用した一人掛けソファと、「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」と言う名で有名なカッパー仕様のソファ(二人掛け)。そしてほぼ未公開であった半月型の大型ガラスベンチ。それぞれがデザインコレクションとして貴重な作品で、その並ぶ姿にはここでしか出会うことができません。
デザインコレクション
デザインコレクション
デザインコレクション
デザインコレクション
石橋財団アートリサーチセンター(町田)に設置された倉俣ソファ
また1階ミュージアムカフェの飾り棚には、倉俣史朗の友人であったイタリアデザイン界の巨匠、エットレ・ソットサス(1917〜2007)によるヴェネチアンガラス器を中心にメンフィス時代の貴重な作品を展示しています。
デザインコレクション
デザインコレクション
デザインコレクション
デザインコレクション
ミュージアムカフェに展示されているエットレ・ソットサスによる作品

サイン計画

美術館施設の案内であり、建築の重要なアクセントとなるサインシステムを、ピクトグラムをはじめオリジナルで開発しました。新機軸となる極細のLEDを用いた「スリットライト」により、文字やピクトグラムを浮き上がらせ、視認性向上と同時に空間に軽やかな印象を与えています。
サイン計画
サイン計画

快適で安全な鑑賞環境構築の取り組み

日時指定予約制の導入

日時指定予約制の導入

お客様の待ち時間を少しでも短くし、より快適に鑑賞いただくために、WEB予約による「日時指定予約制」を導入しました。
危険物検知ゲートシステムの導入

危険物検知ゲートシステムの導入

お客様に安心して鑑賞いただくことと作品の安全を考慮し、3Fのエレベーター前に米国エボルブテクノロジー社製の危険物検知ボディスキャナーを導入しました。本スキャナーは独自の高度なAIセンサーを搭載しており、人の歩く速度で危険物と一般的所持物を識別し、スムーズに検査を実施することができます。

汎用クレートの開発

石橋財団では研究施設として2015年5月よりアートリサーチセンター(ARC)の活動を開始し、美術作品の研究、保存、修復、資料保管等を行っています。この度、ヤマトグローバルロジスティクスジャパン株式会社との共同開発により、環境にも優しく、ゼロ・エミッションの観点から、繰り返し使える美術輸送のための汎用クレートを開発しました。仕様および素材の安全性能について試行錯誤した結果、金属(アルミ)製の20号サイズのクレートが完成しました。開館記念展準備のための作品輸送から使用しました。
石橋財団アートリサーチセンター石橋財団アートリサーチセンター
汎用クレートの開発
汎用クレートの開発

受賞一覧(2021年12月現在)

海外賞

CTBUH AWARDS 2021(米国)
MEP(建築設備)部門 最優秀賞

受賞対象:ミュージアムタワー京橋、アーティゾン美術館
主催:Council on Tall Buildings and Urban Habitat
超高層全体を利用し、自然の風やエネルギーを活用した大規模自然換気システムを中心に、建築全体としての総合的なサスティナビリティへの取り組みが評価された。

CTBUH AWARDS 2021(米国)
高層ビル100 ‒199m部門 優秀賞

受賞対象:ミュージアムタワー京橋、アーティゾン美術館
主催:Council on Tall Buildings and Urban Habitat
街のコンテクストや歴史と融和しながら、都市と環境に開く、革新的な外装ルーバーを持つ超高層建築として評価された。

ABB LEAF AWARDS 2020/21(英国)
複合用途ビル部門 最優秀賞

受賞対象:ミュージアムタワー京橋
主催:Leading European Architecture Forum (in association with ABB)
次世代の基準となる建築作品を評価する視点で、革新的な技術とデザインによってオフィスと美術館が高度に融合された建築として評価された。

MIPIM Asia Awards 2020(仏)
社会・経済に資する公共的建築物部門 銀賞

受賞対象:ミュージアムタワー京橋
主催:Reed MIDEM
ハイグレードオフィスと美術館の複合建築として、さまざまな革新的技術の取り組みと高いレベルのデザインが評価された。

2021 Sky Design Awards(カナダ)
インテリア部門 金賞

受賞対象:アーティゾン美術館
主催:Merci Media Corporation
日本、アジア、カナダを中心に幅広いデザイン領域を対象とした賞。インテリア部門において、アーティゾン美術館のシンプルで現代的なデザインが評価された。

DFA Design for Asia Awards 2020(香港)
優秀賞

受賞対象:アーティゾン美術館
主催:Hong Kong Design Centre
アジアの視点から優れたデザインを表彰する国際デザイン賞。優れたデザイン性、技術的応用力、アジアへの影響力、社会的成功の4つの軸で評価を得た。

APIDA – Asia Pacific Interior Design Awards 2020(香港)
優秀賞

受賞対象:アーティゾン美術館
主催:Hong Kong Interior Design Association
アジアのインテリアデザインを代表する賞。アーティゾン美術館は革新性・機能性・空間企画等の評価軸でバランスよく評価された。

IFLA ASIA-PAC LA Awards(シンガポール)
屋上庭園部門 優秀賞

受賞対象:ミュージアムタワー京橋
主催:International Federation of Landscape Architects
スキップフロア型屋上庭園の室内外に連続する立体的な緑空間の優れたデザイン性と、実証実験によって確認されたバイオフィリックな効果の有効性が評価された。

国内賞

日本建築家協会優秀建築選2020

受賞対象:ミュージアムタワー京橋
主催:公益財団法人 日本建築家協会
一般建築部門(業務・商業施設)において、オフィスと美術館を複合した建築として高いレベルでデザインと環境配慮技術をまとめたことが評価された。
危険物検知ゲートシステムの導入

日本空間デザイン賞 2020
博物館・文化空間 金賞

受賞対象:アーティゾン美術館
主催:一般社団法人 日本商環境デザイン協会/
一般社団法人 日本空間デザイン協会
日本最大の空間デザイン賞。屋内外を心地良くつなぐデザインと、内部に広がる大空間、展示室の快適性が高く評価された。

第62回BCS賞

受賞対象:ミュージアムタワー京橋
主催:一般社団法人 日本建設業連合会
事業企画、設計、施工、環境、運用維持管理ままで、発注者・設計者・施工者が三位一体となりトータルでの完成度が高い建築であることが評価された。

第54回日本サインデザイン賞2020
銅賞

受賞対象:ミュージアムタワー京橋
主催:公益社団法人 日本サインデザイン協会
高層ビルを覆う縦ルーバーのイメージを基本展開し、緻密で知的なサインシステムをデザインしたことが評価された。

第54回日本サインデザイン賞 2020
金賞

受賞対象:アーティゾン美術館 サイン計画
公益社団法人 日本サインデザイン協会
シンプルなグラフィックにLEDを内蔵させて光らせたことに新規性があり、見やすさという機能性も向上させていたことが特に評価された。

第19回環境・設備デザイン賞
建築・設備統合デザイン部門 最優秀賞

受賞対象:ミュージアムタワー京橋
主催:一般社団法人 建築設備綜合協会
建築と設備が、コンセプトからディテールに至るまで高いレベルのデザインで統合された次世代の環境建築として評価された。

2021年度グッドデザイン賞
グッドデザイン・ベスト100

受賞対象:アーティゾン美術館
公益財団法人 日本デザイン振興会
公共建築/空間部門で都市型美術館の具現化と豊かな体験ができる空間として評価を得た。全5,835 点応募中、Gマーク賞1,608点の中からベスト100に選ばれた。

2019年照明普及賞

受賞対象:ミュージアムタワー京橋
主催:一般社団法人 照明学会
オフィス・美術館両方で視環境、照明技法、照明効果などの観点から総合的に優れた照明施設であることが評価された。

第20回 屋上・壁面緑化技術コンクール
屋上緑化部門 日本経済新聞社賞

受賞対象:ミュージアムタワー京橋
主催:公益財団法人都市緑化機構
就労者の健康や快適性の向上に立脚した緑のデザインが、都市部超高層でのオフィス環境の新しい姿を実現し、バイオフィリックデザインの有効な導入例であると評価された。

アーティゾン美術館 建築概要

建物名称
公益財団法人石橋財団 アーティゾン美術館
建築場所
東京都中央区京橋1-7-2 ミュージアムタワー京橋内
地域・地区
商業地域、防火地域
都市計画
都市再生特別地区、地区計画等
主要用途
美術館
敷地面積
2,813.74㎡
建築面積
2,212.83㎡
延べ面積
6,715㎡(美術館部分)
展示面積
2,052㎡(4階 702㎡、5階 612㎡、6階 738㎡)
構造
基礎免震、S造、一部RC・SRC造
階数
B1 ~ 7階
開館時期
2020年1月18日
ミュージアムタワー京橋 地上23階、地下2階、塔屋2階
最高高さ
149.22m
設計・監理
株式会社日建設計
美術館デザイン
TONERICO:INC.
施工
戸田建設株式会社